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ジェル塗りますね
「こいつ、ほんとに医者か?」
と運転手さんが疑い始めた頃、病院が見えてきた。
さあ信号を右折すれば病院に到着というその時、運転者さんが道を間違えて、交差点を華麗に直進。
Uターンして来た道を戻る間にも、無慈悲に回り続けるメーターを眺めていると、病院の入り口前についた。
しっかり1万円ちょっとの料金を払って下車。
え?道を間違えた分も払わされるんですか?
まあ仕方ない。タマの命は金に変えられん。
Tama is not money.
夜間入口から入り、受付でなんやかんやして、いざ診察室へ。
病院についたからね、佐介!
もう大丈夫だから!
先生!どうか…どうか佐介を助けてください!
的な心持ちで診察室のドアをくぐる。
診察室には30代前半ぐらいのがっちりとした体型の男性医師が座っていた。
そして、その手元に“ある本”が置かれていることに俺は気がついた。
その本の表紙には『急患対応マニュアル』というような題名が、書き記されていた。
うん。
めっちゃ不安~~~。
いや、そりゃあさ、お医者さんって言ったてそれぞれに専門領域があるわけで。
どんな症状に対しても完璧な自信を持って対応できないことぐらいはこちらもわかっていますよ。
俺だって自分の部署以外の、経理とか調達の仕事を急に振られたら困る。
でもぉ~、女子的には〜、スマートさも求めちゃうわけでぇ〜。
ほら、白鳥も優雅に泳いでいるように見えて、水の中ではめちゃくちゃ頑張って足を動かしてるっていうじゃない?
何でもできる先輩が、実はみんなの見えないところで努力してるところにキュンとするわけでぇ〜。
ね?わかるでしょ?
読者のみなさん、黙れって思ってるでしょ?
わかってます。黙ります。
そんな感じで一抹の不安を抱えながら、まずは問診。
「え〜と、タマが腫れているとか」
先生の先制パンチが放たれる。
「腫れてます(キッパリ)」
それを掌で軽く受け止める俺。
タマが腫れているかどうか聞かれたぐらいで照れるようなステージはとうの昔に過ぎている。
そんなことで照れるような甘ちゃんじゃあないぜ。
どうやら数々の死線を越えるたび、知らず知らずのうちに俺も成長しているようだ。
「とりあえずエコー撮ってみましょうか。それじゃあ、そこのベッドにズボンを下ろして、横になってください」
え、むりむりむり、それは全然恥ずかしいって!!!
先生の強烈なボディブローが、俺のガラ空きの鳩尾を抉る。
何が悲しくてクリスマス直前の深夜に、会って数分の男性の前で下半身丸出しで横にならないけないの??
そんなのおかしいよ!
何か納得できる理由でもないとそんなことできるわけないじゃん!!!
タマが腫れてるからだろ?
はい、そうです…
グダグダ言ってねぇでさっさと下ろせ。
はい、ただいま…
俺はズボンを太もものあたりまで下ろして、ベッドの上に仰向けで横になった。
あ〜、何やってるんだろう、おれ。
「じゃあジェル塗りますね」
へ?
なんて?
ひゃん!冷たい!
ジェル冷たい!!!
先生はその体格には似つかわしくない程に優しい手つきで俺のタマにジェルを塗っていく。
先生と俺の間に、暫し無言の時間が流れる。
まじで何やってるんだろう…。
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