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119番消防です
まさか人生で初めての119番通報が自分のタマの為とは…。
あ、かける前に原稿考えよ。
そうそう、メモとペンも用意しとかないとね!
まさか向こうも119番通報でここまで入念に準備してるとは思わねーだろうな。
よし、これで準備は整った。
気分は完全に意中のあの子にかける時のそれ。
左手でスマートフォンを握りしめ、右の人差し指を画面へとかざす。
はやる気持ちを必死に抑え、一音一音メロディを奏でていく。
一瞬の静寂。
それを破るのはコール音。
ううん、違う。
これはきっと…ドアを叩く音。
このドアの向こうにいる彼はどんな言葉で私を迎えてくれるのだろう。どんな声で私に語りかけてくれるのだろう。
聴きたいけど、聴きたくない。
あ、どうしよう。
せっかく考えた言葉、忘れちゃった。
まあいっか。
私の心にきっと私の言葉は追いついて来る。
ーガチャ。
さあ、行こう。
「119番消防です。火事ですか?救急ですか?」
(おっさんボイス)
「あ、タマが腫れてて」
質問に答えてないって?
うるせぇ!!!
しょうがないじゃん!
テンパっちゃったんだから!
そうだよ!陰キャだから“あ”ってつけちゃうんだよ!文句あるか!?
とにかく、ここに至るまでの経緯をおっちゃんに話したところ、次のような提案をしてくれた。
- 救急車を呼ぶ
- 近場の夜間診療を受け付けてくれる病院を紹介するので、そこで受診
もちろん後者を選択し、おっちゃんから3つの電話番号を教えてもらった。
おっちゃんにお礼を言って電話を切った俺は、そのまま教えてもらった番号通りにキーパッドをタップ。
まずは一番近い病院。
119番通報を経験した俺に、もはやためらいはない。
今度こそ的確に己がタマの状況を伝えられるだろう。
いざ勝負!
プルルルル
ガチャ
「はい、○○病院です」
声が可愛い!!!!
はわわわわわ。どうしよう緊張してきた。
そうだ、なんか言わなきゃ!
「あ、タマが腫れてて」
学べや!!!
PDCAを回せと、さんざん研修で言われただろ!
さーせん…
「人は話し方が9割」って本が100万部売れてる時代になんだ、この体たらくは。
そこは残り1割、内容で勝負かなって、
へへへ。
タマの話だぞ?
…
…
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「人は話し方が9割」
好評発売中!
さて、ステマも終わったところで話を戻そう。
ちなみに、俺は読んだことはない。
完全に油断していた。
打席に立ってるのは草野球のおっさんだと思ってたら、大谷持ってくるんだもん。
先頭打者ホームランですよ。あんなの。
どうでしたか?解説の里崎さん。
いや~、ピッチャーもね、いい球だったんですけどね~
大谷は完全に読んでましたね。
どんな球が来るか。
難しい球だったんですけどね~。見事にレフトスタンドに弾き返しましたね。
里崎よろしく、自分のタマの状態を伝える。だんだん説明が上手くなってきた気がするなぁ。
深夜、突然の電話。
若い女性にいきなりタマの話を始める男。
どこの変態だよ…。
なんかの犯罪の構成要件に該当しそうだな、これ。大丈夫かな?我妻説では損害賠償とかない?
不安になりながらも、一通り状況を伝えきった。
次はそちらのターンだ。
さあ、どうでる。
「担当の先生が不在で、恐れ入りますがお断りさせていただいております」
断られた。
キーーーン、コーーーン、
カーーーン、コーーーン
「おい、2組の吉田がお前のこと好きらしいぞ!」
「あ、それ俺も聞いた。巧が駐輪場で吉田と関が話してるのたまたま聞こえたんだって」
「まじか!これいけるやつかな!?」
「いける、いける!」
「もうすぐ夏休みだし、今しかなくね?」
「だよな!っしゃ~、俺、今日告るわ!」
5時間目と6時間目の授業は全く頭に入ってこなかった。去年の夏はほぼ部活と家でゴロゴロしてるばかりで大した思い出もなかったが、今年は違う。これでおれも初彼女か~。夏祭りは絶対行きたいし、海なんかもいいな~。
そんなことを夢中で考えていたら、気づけば放課後になっていた。SHRが終わると同時に教室を飛び出した俺は、駐輪場で吉田が来るのを待った。結局、告白はシンプルなのが女子には受んだよ、という亮のアドバイス通りに考えたセリフを小声で繰返す。
帰んないの?と怪訝な表情をして聞いてくる友達と言葉を濁しつつ会話をして何人か見送ったり、サッカー部のPK練習を眺めて暇をつぶしていても気持ちは昇降口に張り付いたままだった。
1時間待ったのか、10分待ったのかわからなくなっていたころ、視界の端に目当ての青いリュックが見えた。
何十回も唱えたセリフをもう一度小さな声で唱える。
「お?吉田じゃん。い、いま帰り?」
「おー、斎藤くん。そー、せっかく今日部活休みなのに、顧問に呼び出されてさ~」
「へ、へー。そうなんだ」
「まあ、いつもに比べたら全然早いからいいんだけどね。斎藤くんは?」
「あ、バスケ部も休みで」
いや、どのタイミングで告ればいいんだ!?責任もって教えておいてくれよ、亮のやつ~。
「奇遇だね~。じゃあお互いちゃっちゃと帰るとしよう。じゃあね!」
やばい!待って、待って、待って!
「吉田!」
「ん?」
「お、俺、1年の時から吉田のこといいなって思ってて…。それで、その、よかったら付き合ってください!」
ぜんっぜん、イメージ通り行かなかったぁ~。いや、でも言うには言ったからいいだろ!さっそく今日、一緒に帰っちゃったりすんのかな!?
「そっか…。ありがとう。気持ちはすごく嬉しい。斎藤くん、明るいし面白いから、付き合ったら楽しいだろうなって思うけど…」
え?思ってた反応と違くない?なんでそんな困ったような顔なの?
「今は部活に集中したくて。だから…、ごめんね」
「あ、いや、そうだよな!ウチのバレー部、強いもんな!こっちこそごめん!急にこんな…。あ、じゃあ、気をつけて帰れよ!」
「うん。じゃあー またね」
こんな気持ち。
だって~~~。
みんな、いけるって言うんだもぉぉぉぉん。
話が違うじゃ~~~ん。
こっちは勇気振り絞って自分のタマ〇ンの話してんのに、まるでバカみたいじゃないですか!!!
すみません。
内なるコビーが叫んじゃいました。
大丈夫。持ち球はあと2つ残ってるから。玉なだけに~。
気を取り直して、2番目に近い病院にかけてみよう!
プルルルル
プルルルル
プルルルル
プルルルル
プルルルル
出ないんかい!!
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